「せっかく採用した外国人メンバーが、1〜2年で辞めてしまう」。理由を聞くと「給与に不満があったわけではない」と言われて、余計に戸惑う——そんな経験はないでしょうか。
定着は、給与や休暇制度だけでは決まりません。土台としては大切ですが、条件だけで人がとどまるなら、「もっと条件のいい別の会社」に移る理由も同じだけ生まれます。人が働き続けたいと思う理由の多くは、もっと日々の実感に根ざしています。すなわち、「自分はここで必要とされている」「ここで成長できている」という手応えです。
そして、その手応えを誰が握っているかというと、上司です。ギャラップは、従業員エンゲージメントのばらつきの約70%は、直属のマネジャーの違いで説明できるとしています。制度でも報酬でもなく、いちばん近くにいる一人。だからこそ、上司と部下が定期的に向き合う1on1が、定着の主戦場になります。
「必要とされている」実感が、離職を止める
なぜ実感がそこまで効くのか。BetterUp の調査は、職場で「自分はここに属している」という帰属感が高い人は、離職リスクがおよそ50%低く、職務パフォーマンスは56%高く、病欠は75%少ない、という数字を示しています。帰属感は気分の問題ではなく、業績と定着に直結する変数だということです。
外国人メンバーは、言語や文化のハンディを抱えながら働いています。同じ成果を出していても、「本当に戦力として見られているのか」が見えにくく、不安になりやすい。ある共同調査(2021年、回答477人)では、外国籍人材の超早期離職は28%、入社後にモチベーションが下がった人は53%にのぼり、その最多の理由が「上司のマネジメント・指導に対する不満」でした。裏返せば、上司との関わり方しだいで、定着は大きく動くということです。
もう一つ、見過ごせない数字があります。パーソル総合研究所の2020年の調査では、日本で働く外国人の若手は「日本で11.6年働き続けたい」と考えている一方、「今の会社で働き続けたい年数」は6.7年でした。日本に居たい気持ちはあるのに、会社への定着意向はその手前で失速している。この差を埋める場所が、1on1です。
進捗確認だけの1on1は、定着に効かない
上司の7割が話し、進捗確認と指示で終わり、「困ってない?」に「大丈夫です」で流れて、メモも残らない——こういう1on1をいくら重ねても、定着にはつながりません。定着に効く1on1には、意識して織り込みたいテーマが3つあります。
キャリアの見通し(母国も含めた将来)。 外国人メンバーのキャリアは、「この会社の中で」だけでは完結しないことがあります。いずれ母国に戻る選択肢を持つ人もいれば、日本で長く働きたい人もいる。どちらも自然なことです。将来像を否定せず、その将来に今の仕事がどうつながるかを一緒に考える姿勢が、信頼を生みます。とくに高度外国人材は、年功ではなく成果で公正に評価されることを重視する傾向が強い(パーソル総合研究所, 2020)。「いつか順番が来る」ではなく、「これができれば、次はここへ」と道筋を見せることが効きます。
生活面の不安。 仕事のパフォーマンスは、生活の安定と地続きです。住まい、家族、在留手続き、日本語、地域とのつながり——こうした不安は、本人からはなかなか切り出しにくい。1on1で「仕事以外で、困っていることはない?」と一言添えるだけで、相談の入口が開きます。
具体的な承認。「よくやってるね」だけでは社交辞令に聞こえます。いつ・何が・どう良かったかを具体的に伝えると、承認は本物になる。「先週の会議で、あなたが数字の根拠を先に示してくれたおかげで、議論が早く進んだ」——このくらいの解像度が、「必要とされている」実感をつくります。
そのまま使える、問いの例
1on1で沈黙が続くとき、次のような問いが呼び水になります。答えをすぐに求めず、考える時間を渡すのがコツです。
- 「最近の仕事で、いちばん手応えを感じた瞬間はどれですか」
- 「今、いちばん時間がかかっている・やりにくいことは何ですか」
- 「半年後、どんなことができるようになっていたいですか」
- 「私やチームに、もっとこうしてほしいということはありますか」
- 「仕事以外で、生活の面で気になっていることはありませんか」
- 「将来のこと——日本で働き続けるか、母国も含めてか——今どんなふうに考えていますか」
最後の問いは、踏み込みすぎに思えるかもしれません。でも「あなたの将来を、会社も一緒に考えたい」というメッセージそのものが、とどまる理由になります。
「この会社にいたい」という気持ちは、待っていて生まれるものではなく、日々のやり取りの中で育てられるものです。月に1回、30分でかまいません。進捗を確認する時間ではなく、その人の未来を一緒に見る時間として使う。困りごとが出たら、次回までのアクションにして、次はそこから始める。それを続けた先に、定着は静かに育っていきます。




