「やさしい日本語を心がけているのに、なぜか指示が伝わらない」「フィードバックしたのに、次も同じところでつまずく」。外国人メンバーを受け入れているチームで、本当によく聞く声です。日本政策金融公庫総合研究所が中小企業を対象に行った調査でも、外国人雇用の課題として「コミュニケーションに手間がかかる」が上位に挙がっています(2024年)。言葉が通じないというより、「伝えたつもりが伝わっていない」ことに、みんな消耗しているのです。
やさしい日本語——短く区切る、難しい熟語を避ける、敬語をシンプルにする——は、たしかに大切な入口です。でも、それは「言葉の入口」を整えただけ。伝わるかどうかは、そこから先の伝え方の設計で決まります。ここが抜けていると、どれだけ平易な単語を使っても届きません。設計を変える技術は、次の4つに絞れます。
1. 結論から、具体的に言い切る
日本語は、大事な情報が文末に来やすい言語です。「〜だと思うんだけど、まあ状況にもよるから、できれば……」と前置きが続くと、聞き手は最後まで結論が読めません。母語でない人には、なおさら負担が大きい。
まず結論を先に、そして具体的に言い切ります。
- 伝わりにくい例:「この資料、時間があるときでいいので、余裕があれば見ておいてもらえると助かるかもしれません」
- 伝わる例:「この資料を、明日の15時までに確認してください。見てほしいのは、誤字と数字の2点です」
「いつまでに」「何を」「どこまで」を具体化すると、あいまいさが消えます。これは相手の日本語力の問題ではなく、指示そのものの精度の問題です。ちなみに、ある異文化研修では、日本人が言った「OK」を相手が「完全に完了」と受け取って次の作業に進んでしまった、というすれ違いが報告されています。「OK」「いいね」のような軽い肯定ほど、解釈が割れる。完了なのか、及第点なのか、そこまで言葉にしておくと事故が減ります。
2. ポジティブとネガティブを、分ける
フィードバックのとき、良い点と直してほしい点を一息に混ぜて話すと、要点がぼやけます。とくに「褒めながら指摘する」話法は、相手を「結局、良かったの? 直すの?」と迷わせがちです。日本人が無意識にやる、遠回しな緩衝材が、ここでは逆効果になります。
良かった点と改善点は、はっきり分けて伝えます。
- 伝わりにくい例:「資料よくできてたけど、まあここはちょっとね、でも全体的にはいい感じだったよ」
- 伝わる例:「良かった点は、構成が分かりやすく、結論が最初にあったこと。次に直したい点は、数字の出典を1つずつ明記することです」
改善点を伝えるときも、人格ではなく行動を対象にします。「注意力が足りない」ではなく「送信前に、数字を2回チェックする」。何をすればいいかが分かる言葉にするのがコツです。
3. 理解を、"相手の言葉"で確認する
「わかった?」と聞けば、たいてい「はい」が返ってきます。これは日本人でも同じで、その場の空気で反射的に答えてしまうもの。「聞き返すのは失礼」と感じる文化の人なら、なおさら本当は分かっていなくても「はい」が出ます。
だから、相手の言葉で説明してもらう確認に切り替えます。
- 伝わりにくい例:「ここまでで分からないところある? 大丈夫?」
- 伝わる例:「念のため確認したいので、これから何を、どの順番でやるか、あなたの言葉で教えてもらえますか」
このとき、「あなたを疑っているのではなく、私の説明が足りていないかを確かめたい」という姿勢を一言添えると、聞き返しやすい空気になります。ズレがあれば、その場で埋められる。手戻りの何倍も安いコストです。
4. 口頭だけでなく、書き言葉を残す
口頭の説明は、その場では分かった気になっても、後から細部が抜け落ちます。母語でない言語なら、なおさらです。大事な指示は、話したあとに短くテキストでも残す。これが効きます。
依頼はチャットに「何を・いつまでに・完成の目安」を3行で送る。会議で決まったことは、箇条書きのメモを共有する。よく出る手順は、簡単な手順書にして繰り返し使えるようにする。書き言葉は、相手が自分のペースで読み返せる「安心のよりどころ」になりますし、翻訳ツールにもかけやすい。言った・言わないの水掛け論も減ります。
この4つに共通しているのは、どれも「相手の日本語力を上げる」話ではない、ということです。変えるのは、伝える側の設計だけ。しかも面白いことに、ここで挙げた4つは、日本人同士の指示やフィードバックにもそのまま効きます。多国籍チームで伝わる工夫は、たいてい、誰にとっても分かりやすいのです。まずは次に誰かへ何かを頼むとき、その一文を「結論から、具体的に」書き直すところから始めてみてください。




