採用がうまくいった会社ほど、その後の受け入れを軽く見がちです。「いい人が採れた。あとは現場が育ててくれる」——そう思って手を離した3か月後、面談で「実は、次を考えていて」と切り出される。外国人総合職の受け入れで、この落とし方は本当に多い。

ここで一度、順番を疑ってみてほしいのです。定着施策というと、辞めそうな人を「引き留める」施策を思い浮かべます。手当を足す、面談を増やす、キャリア面談を組む。でも引き留めが必要になっている時点で、もう手遅れであることがほとんどです。人が辞めないのは、引き留められたからではなく、早く活躍できて、ここに自分の居場所があると感じられたから。だとすれば、定着のためにやるべきことは「辞めさせない工夫」ではなく「早く戦力になれる環境を、先回りして用意すること」になります。そしてそれは、入社日ではなく内定日から始まっています。

放置された初日は、戦力化を数か月遅らせる

Gallup の調査では、自社のオンボーディングが「すばらしい」と強く感じている従業員はわずか12%にとどまります(Gallup, 2018)。裏を返せば、9割近い人が「入社時に置いていかれた」感覚を持っている。そして同じ調査では、離職の約半分が入社から最初の期間に集中し、一人辞めると採用・育成のやり直しに給与の6〜9か月分がかかるとされています。

初日にありがちなのは、朝の挨拶のあと席に案内して資料を渡し、あとは自習——気づけば誰も話しかけないまま夕方、というパターンです。悪気はない。でも受け入れる側が準備をしていなかった数日のツケは、そのまま「立ち上がりの遅れ」になって返ってきます。放置された新人が自力で仕事の勘所をつかむまで、戦力になるタイミングは平気で3〜6か月ずれます。外国人メンバーの場合は、そこに言語・生活・商習慣の負荷が上乗せされる。日本語の会議についていけない、暗黙のルールが読めない、住まいや役所の手続きに追われる——業務以前のところで消耗しているのに、「まだ成果が出ないな」と評価される。この理不尽が、静かに気持ちを削っていきます。

つまずくのは、能力ではなく「順番」

受け入れがうまくいっている組織を見ていくと、入社後の体験がおおむね同じ順番で積み上がっています。

  1. 情報 ―― 何を、いつまでに、どう進めればいいのかが分かる
  2. 理解 ―― なぜこの仕事があり、自分は何を期待されているのかが腑に落ちる
  3. 成果 ―― 小さくても「自分で貢献できた」という手応えを持つ
  4. 居場所(帰属感) ―― このチームに自分の場所がある、と感じられる

逆に定着に失敗する現場は、この順番のどこかが飛んでいます。情報だけ大量に渡して理解を確かめない。理解の前にいきなり大きな成果を求める。成果は出ているのに、それがチームにどう役立ったかが本人に返っていかず、居場所の実感まで届かない。以下では、内定から90日をこの4段階に沿って設計していきます。

フェーズ0:内定〜入社前 ―「接点」を切らさない

多くの会社で、いちばん手薄なのが内定から入社日までの数か月です。ここが空白になると、入社初日に「はじめまして」からやり直すことになる。もったいない話です。

外国人の内定者は、この期間に日本での住まい探し、在留資格の手続き、引っ越し、場合によっては家族の帯同など、生活の土台づくりに追われます。会社からの連絡が途切れていると、不安は静かに膨らみます。難しいことをする必要はありません。月に一度でいいので連絡を取り、配属予定チームの様子を伝え、生活面で困っていないかを聞く。入社前にオンライン顔合わせを一度挟んでおくだけで、初日に「知っている人が一人でもいる」状態がつくれます。この「知っている人がいる」は、後から効いてきます。

フェーズ1:Day1 ―「なぜあなたを採ったか」を言葉にする

初日にやるべきことは、スキルの確認でも、制度の一気説明でもありません。良かれと思って初日に規程・ルール・システムを母語でない言語で浴びせると、記憶に残らず疲弊させるだけです。初日の主役は、たった一つのメッセージです。「私たちはあなたを歓迎しているし、こういう理由で採用した」

なぜ採用したのか、この先どんな活躍を期待しているのか。それを本人の口から聞き返せるくらい具体的に伝える。ここが曖昧なまま走り出すと、本人は「自分は何を求められているのか分からない」まま数か月を過ごすことになります。あわせて、業務指導とは別に雑談や生活相談ができる受け入れ担当(バディ)を紹介しておく。年次が近いと聞きやすい。席・PC・アカウントが初日に揃っている、という当たり前も、ここでは「準備してもらえた」という歓迎のメッセージとして働きます。

フェーズ2:最初の30日 ― 小さな成果で「できる」を実感させる

心理学者バンデューラは、自己効力感——「自分はやれる」という感覚——を育てるいちばん強い源は、実際にやり遂げた経験(達成体験)だと述べています。研修や励ましより、小さくても「自分で終わらせた」という事実が効く。だから最初の30日は、意図的にスモールウィンを設計します。

  • 1週間で終わる粒度のタスクから渡す(いきなり大きな案件を任せない)
  • 完了したら、その場で「何が」「どう」良かったかを具体的に承認する
  • バディとの1on1を週1で固定し、詰まりを早いうちに拾う

同時に、生活面のケアを止めないこと。パーソル総合研究所の2020年の調査では、日本で働く外国人の若手は「日本で11.6年働き続けたい」と考えている一方、「今の会社で働き続けたい年数」は6.7年にとどまりました。日本に居たい気持ちはあるのに、会社への定着意向はその手前で失速している。しかも同調査では、母語で相談できるメンターがいる職場は18%、日本語以外で相談できる窓口があるのは7.5%と、支えの仕組みが決定的に薄いことも示されています。住まい・銀行口座・在留カードの手続き・通院——業務外の困りごとの相談先を明示しておくだけで、この失速は目に見えて減ります。

フェーズ3:31〜90日 ― 期待役割を、対話でそろえる

慣れてきたこの時期に、改めて期待役割をすり合わせます。「総合職なんだから察してほしい」は、いちばん通じにくい要求です。何を、いつまでに、どの水準で求めているのか。逆に本人は何を伸ばしたいのか。ここは説明ではなく対話にします。

すり合わせる項目 具体的に確かめること
担当業務 今任せている仕事と、3か月後に広げたい範囲
評価基準 どうなれば「できている」と見なすのか
相談ルート 困ったとき、誰に、どの手段で聞くか
キャリア 本人が伸ばしたい方向と、会社の期待が重なる点

高度外国人材は、年功ではなく成果で公正に評価されることを特に重視する、という調査結果があります(パーソル総合研究所, 2020)。「いつか順番が来る」式の説明は響きにくい。だからこそ、何を達成すれば何につながるのかを、この時期にはっきり言葉にしておく価値があります。

フェーズ4:90日レビュー ― 評価ではなく、見通しの共有

90日目には、腰を据えた面談を一度もちます。目的は成績をつけることではなく、「この3か月どうだったか」を一緒に振り返り、次の見通しを描くこと。伸びたこと・良かったことを先に具体で伝え、続いている不安を聞き、次の90日で挑戦することを一緒に決める。ここを流してしまうと、せっかく積み上げた関係が「また放置された」に上書きされかねません。

90日でオンボーディングが終わるわけではありません。むしろここは、居場所の実感が芽生えたかどうかを確かめる最初のチェックポイントです。「情報→理解→成果」まで来て、「居場所」の手前で足踏みしている人は少なくない。そこに気づける設計になっているかが、その後の3年を分けます。

外国人総合職の受け入れは、才能ある人を採れば半分終わり、ではありません。むしろそこがスタートで、内定日からの90日をどう設計するかに、その後の定着のほとんどがかかっています。まずは自社の受け入れフローを、この「内定前・初日・30日・90日」の物差しに当ててみてください。どこかのフェーズがまるごと抜けているなら、それがあなたの会社の、いちばん割の良い改善点です。